研究概要 |
一側内耳破壊後の眼運動や体平衡障害が自然回復する現象は前庭代償と呼ばれ、中枢神経系の可塑性のモデルとして広く研究されている。前庭代償には内耳破壊後に生じた前庭神経核の電気活動性の左右差の是正が重要であるが、その分子レベルでのメカニズムはいまだ明らかではない。本研究では前庭代償の分子メカニズムとして、中枢前庭系におけるGABA受容体やGABA産生の変化が前庭代償に関与している可能性について、ラット内耳破壊後の前庭神経核および小脳片葉におけるGABA受容体およびGABA産生酵素遺伝子発現の変化をreal-time PCR法を用いて検討した。前庭神経核におけるGABA-A 1,GABA-BR1遺伝子発現は内耳破壊後6-50時間で初期は破壊側で後に両側で増加し、これは電気生理実験における両受容体の機能的down-regulationの報告と合わせて考えると、遺伝子レベルにおけるinternalization-induced down regulationと考えられた。前庭神経核では両側性にGAD67の発現増加を認め、これはtype IIニューロンの活性化を通して内耳破壊後のdynamic compensationやVOR gain低下を補うメカニズムに関与する可能性が考えられた。小脳片葉では両側性にGAD65の発現増加を認め、前庭神経核の小脳性抑制を通して前庭神経核の活動性の左右差を補正し、前庭代償を促進する方向に働いている可能性が考えられた。今回見られた現象は遺伝子レベルでの変化であるが、前庭代償の分子メカニズムの確定のためには、蛋白レベルや機能レベルにおける変化をさらに検討する必要があると思われる。
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