聾は新生児約1000人に1人の割合で罹患が見られる感覚器障害で、先天性聾の50%以上が遺伝性であると推定されている。遺伝性聾の約70%が他の臨床症状を示さない非症候群性である。この遺伝性非症候群性聾の約75%が常染色体劣性、20%が常染色体優性の遺伝形質を、2〜3%がX染色体劣性形質を示し残りのケースは母系から受け継がれたミトコンドリア・ゲノム上に変異が存在すると考えられている。このうち最も多い常染色体劣性非症候群性聾(ARNSHL)は新生児約2500人に1人で見られ、30〜100の異なる遺伝子が関与していると推定されている。現在までに20ヶ所のARNSHL座位が報告されており、18ヶ所についてはすでに各染色体にマップされている。 昨年、原因遺伝子の一つを同定し今年Nature Genatics誌に報告した。この遺伝子は今までに同定されたARNSHL原因遺伝子とは機能の面で異なる新規膜結合型セリン・プロテアーゼ(TMPRSS3)遺伝子をコードしていた。 従ってDFNB10およびDFNB8の原因遺伝子(TMPRSS3)のさらなる機能解析、特に標的タンパク(基質)の同定を行い聴覚障害の機構解明ひいては臨床診断・治療に寄与することを目的とした。まず、Green Fluoresent Proteinとの融合タンパク遺伝子を構築し、細胞内局在を調べたところ細胞内に局在していることが明らかとなった。また、マウス・ヒトの両遺伝子産物に対する抗体をラビットで作製し培養細胞で強制発現させたTMPRSS3をウエスタン・ブロット解析した結果、この抗体はTMPRSS3を特異的に認識することが明らかとなったので、今後、遺伝子産物の組織・細胞染色を行う予定である。さらに、現在ノックアウトマウスを作製するためのベクターを構築中であり、ベクターが出来次第ノックアウトマウスの作製に取り掛かる予定である。
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