現在のスギ花粉特異的減感作療法治療用エキスの大きな問題点としては、副作用としてアナフィラキシー反応が出現することである。アナフィラキシー反応が生じる最大の理由はB細胞エピトープが治療エキスに含まれているためであるが、B細胞の抗原認識はT細胞の抗原認識と比べ、より蛋白のコンフォメーショナルな構造認識を行うことから、蛋白構造を何らかの処理により変性させることでT細胞認識のみを賦活化させることが理論上可能ではないかと推測された。また、T細胞のみが賦活化されるならば抗原投与量を早期に増量でき、治療期間を短縮することが可能になると考えられた。そこで、今回、現行のスギ花粉特異的減感作療法治療用エキスに熱変性処理を行ったスギ抗原エキスを用いて、スギ特異的T細胞株増殖反応及び皮膚試験について検討した。スギ花粉特異的減感作療法治療用エキスを用いて、その中に含有されているスギ蛋白主要抗原のCryj1とCryj2をまず変性させた。方法として、37℃、56℃、100℃にてそれぞれ60分間エキスの加熱処理を行った。100℃の加熱処理においては60分間のほかに10分間という短時間処理の検討も加えた。その結果、Cryj1とCryj2の熱変性処理には、100℃10分間の加熱処理が有効であることが判明した。次にスギ花粉を感作させたBALB/cマウスからスギ花粉特異的T細胞株を作成し、抗原提示細胞を用いて作成したスギ抗原エキスを加え、リンパ球幼若化反応を3H-thymidineの取り込みにより測定した。熱変性エキスを用いた場合のT細胞レベルでの効果判定は、現行の熱処理を加えていないスギ抗原エキスを用いた場合と比べると、約6割の治療効果が期待できるという結果に至った。熱変性エキスを用いた皮膚試験は、全く反応を起こさなかったため重大な副作用であるアナフィラキシー反応は回避できると思われた。熱変性エキスが治療上有効であれば、現在開発中のペプチド免疫療法とほぼ同等の効果が期待できる可能性があり、スギ花粉症に対する減感作療法の有効率の向上と患者の負担軽減に大きく貢献すると思われるため、一層の検討を加えていきたいと考える。
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