インフォームドコンセントを得た後に、80名の正常眼圧緑内障患者から血液を採取し、ミオシリン遺伝子変異について解析した。SSCP法によりスクリーニングを行い、変異が疑われたサンプルについて直接シークエンシング法にて遺伝子配列を決定した結果、アミノ酸置換を呈する1つの変異と8つの多型を認めた。Asp208Glu変異家系では、ミオシリン変異と正常眼圧緑内障の表現型が家系内で一致していた。この変異は、健常者60名には認められなかった。 ブタ摘出眼球を材料とし、作製したポリクロナール抗体を用いて、視神経周囲組織におけるミオシリン発現を免疫組織学的に検討した。光顕像において、抗ミオシリン抗体の染色像が、抗Glial Fibrillary Acidic Protein抗体を用いた部位と一致したことから、ミオシリンが視神経乳頭部におけるグリア(astrocyte)に局在していることが確認された。さらに免疫電顕像によりグリア細胞内の核周囲・粗面小胞体・ミトコンドリアおよびグリア線維に陽性反応を認め、特にグリア細胞突起の内境界膜終息部やグリア同士の間や神経・血管との接着部位に多く発現していることが判明した。 次にブタ眼球から培養した、視神経乳頭周囲グリア細胞を用いて、リポフェクション法にてAsp208Glu変異ミオシリンを導入発現させた。細胞内のミオシリン局在を光学顕微鏡および免疫電顕法により観察したが、非導入細胞に比較して明らかな差異は認めなかった。 またCos-1細胞に変異ミオシリンを導入発現させると、多型では正常と同様に分泌されるのに対し、開放隅角緑内障の原因変異では培養上清に分泌されない。一方Asp208Glu変異ミオシリンではCos-1細胞により正常に分泌されたことから、開放隅角緑内障の機序と異なり、正常眼圧緑内障においてはミオシリンが分泌タンパクとして作用しているのではないと推察された。
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