正常細胞は少なくとも培養系においては無制限に増殖することはできず、限られた分裂回数ののち、増殖を停止する。この過程は、細胞老化とよばれ、正常細胞は有限の分裂寿命をもつことが明らかとなっている。老化細胞では多くの遺伝子発現の変化が報告されており、これらの現象はヒトの老化現象や、加齢性疾患の発生と進行にかかわっている可能性が指摘されている。一方、原発開放隅角緑内障は眼内圧が上昇し視神経障害をきたす疾患で、眼内圧の上昇は加齢によって線維柱帯、特に傍Schlemm管結合組織の房水流出抵抗が高くなることによると考えられている。我々は、線維柱帯細胞の細胞老化に着眼し、加齢による房水流出抵抗上昇のメカニズムを明らかにするために実験を行っている。豚眼から得た線維柱帯細胞を継代培養し、サザンブロット法にてテロメアの長さを比較すると分裂回数が多い細胞はテロメアが短縮していた。また、これらの細胞の形態は扁平化し老化関連βガラクトシダーゼの発現がみられ、老化細胞の特徴を示した。さらにリアルタイムPCR法にて線維柱帯細胞の水輸送に関わるアクアポリン1遺伝子の発現を比較すると若い細胞に比べて発現の低下を認めた。培養系において、線維柱帯細胞は細胞分裂を繰り返すことによって細胞老化に陥ること、またこれらの細胞は水輸送に関わる遺伝子の発現が変化することを明らかにした。老化細胞が生体内でも加齢とともに増加するなら房水流出抵抗上昇に強く関わることが示唆された。
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