研究概要 |
骨組織再建の方法として、近年注目されている仮骨延長術を用いて指骨の先天異常を治療した。治療対象となった疾患は、母指多指症術後の変形と頭蓋骨縫合早期癒合症侯群の一つであるアペール症候群の2つのグループである。2グループとも同様に、骨切り術を行い1日に1mmづつ延長すると共に角度の修正も行った。延長した部分に骨が形成されるのを待ってから装具を取り外したが、2つのグループ間で、骨形成の速度に違いがあった。骨形成の速度を定量的に表す目的で、ヒーリング・インデックス(1cmの新生骨を形成するのに要した日数:日/cm)という指標を使ったが、アペール症候群においては37.2日/cm、母指多指症後の変形においては64.3日/cmであった。この比較検討により、母指多指症患者に比較しアペール症候群患者においては、仮骨延長部の骨形成が早いことが示された。 アペール症候群では、以前より、線維芽細胞増殖因子受容体2(FGFR2)遺伝子の変異がほぼ全例に認められることが欧米で示されており、また東洋人アペール症候群患者においても同様の変異が、検討例全例でみられたことを本研究代表者が報告している。このFGFR2の生物学的効果は広範囲にわたっており、未だ詳細に確認されていないが、骨形成に対しては強く関与していると考えられている。今回、アペール症侯群において仮骨延長部の骨形成が促進されていることが示唆されたため、アペール症侯群で変異を示すFGFR2遺伝子は、骨形成を促進させる役割を果たしていることが推測された。 また,骨芽細胞の培養による検討により,FGFR2遺伝子においてアペール型の変異(Ser252Trp)を持つ骨芽細胞は,変異を持たない骨芽細胞に比較し,OsteopontinやOsteocalcinが強く発現していること,培養液中のアルカリフォスファターゼ活性が高いことが判明した。このことから,アペール型変異を持つ骨芽細胞は,骨への分化能が亢進していることが予測された。このin vitroの結果は,以前に,実際の臨床例で得られた結果と一致した。
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