研究概要 |
平成13年度は、ウィスター系雄ラットの鼡径靭帯を用いて大腿神経の絞扼モデルを作成し、術後1〜15週の絞扼部大腿神経の組織学的所見を観察した。絞扼後から軸索数が減少する一方、代償的に軸索径が拡大するという結果が得られたが、神経変性の程度を決定するといわれる絞扼開始後初期の変性度が観察できなかったため、平成14年度は絞扼期間を8週間に短縮し、3種類の絞扼方法でモデルを作成した。モデルA(Roll-up法):鼡径靭帯を末梢側で切離し大腿神経血管束に1回巻きつけ、靭帯どうしを縫着する。モデルB(Tight-fix法):Aより強い絞扼を目的とし、対側の鼡径靭帯を採取して神経血管束下に通し、両端を靭帯に縫着する。モデルC(Roll法):対側から採取した靭帯を神経血管束に1回巻きつける。 モデルA〜Cについて術後2・4・8週の絞扼部から2mm末梢の神経を採取し、微細形態的所見を比較検討した。モデルA, Bでは絞扼開始後に一旦軸索数が減少したが、軸索径は経時的に拡大傾向を示した。また絞扼4週後から軸索再生の指標となるシュワン細胞数が増加し、軸索内のアイランド形成が活発となっていた。一方モデルCは軸索数の明らかな経時変化はなく、絞扼2週後で軸索の再生所見がみられ、絞扼後8週ではほぼ軸索再生が完成していた。絞扼性神経障害の誘発因子としては、圧迫、牽引、摩擦、阻血などがある。今回の実験結果ではモデルA, BはCに比べて軸索再生が遅れていることから、これらの絞扼要因が強く影響したと考えられる。またモデルCは神経、靭帯および周囲組織の癒着が少なく早期から軸索再生が観察されたため、A, Bに比べ絞扼の程度が小さかったと推測される。 今後,神経変化と支配筋の変性の程度を関連づけることができれば、ヒトにおける術前の多角的検索および治療予後の見通しに役立てることができると考えられた。
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