研究概要 |
抜歯創治癒過程初期の血管の形成と局在性の観察を目的として,ラット上顎臼歯の抜歯窩の経時的変化を病理組織学的,免疫組織化学的,レクチン組織化学的に検索し以下の知見を得た. 抜歯窩に増殖する線維芽細胞様細胞は抜歯窩周囲組織の特に窩壁に残存する歯根膜組織に由来すると考えられている.今回の検索では抜歯直後から抜歯窩に隣接する骨髄の骨内膜がαSMA陽性線維の増生を伴って顕著に肥厚していた.同時に新生肉芽組織中にはαSMA陽性の線維芽細胞様細胞の顕著な増生が認められた.残存歯根膜組織には顕著な増殖性変化を認めず,抜歯窩に増殖する線維芽細胞様細胞の由来は隣接骨髄の骨内膜の細胞が主体をなす可能性が示唆された. 抜歯窩に新生する血管内皮は窩壁に残存する血管の断端,もしくは血流中の血管内皮前駆細胞に由来すると考えられている,今回の検索からは血管内皮の由来は明らかではなかったが,新生血管内皮の周囲の細胞(周皮細胞)が新生肉芽組織中に増殖するαSMA陽性細胞に由来する可能性が示唆された. 線維芽細胞様細胞および血管の増生が窩壁から凝血塊中心に向かって進行すること,加えて術後の骨内膜の肥厚増殖が,抜歯窩に最も近隣する骨面で顕著なことから凝血塊自体にそれらの増殖を促進する因子が含まれていることが示唆され今後の検討が必要と考えられた. 術後10日目に至り新生骨梁周囲にマクロファージ(破骨細胞)が初めて出現することから,この時期に新生骨髄中の血流が確立するものと考えられた. この内容は第91回日本病理学会総会にて発表の予定である.
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