歯の形成は上皮間葉間の相互作用によるエナメル器細胞の増殖・基質産生と石灰化を経て、萌出による機能状態に移行する一連の過程と捉えられる。この長期にわたる歯の形成過程では、歯質形成と歯の萌出とが調和して進行していく必要がある。本研究では、生涯にわたって歯質形成と萌出を続けるラット切歯モデルにおいて、口腔内マクロ所見(切歯萌出速度の測定)、組織器官レベルでの形態計測(歯質形成量と周囲組織の成長発育)、細胞分子レベル(遺伝子発現と蛋白局在)での観察結果を総合することにより、ラット切歯の萌出シグナル(完全停止、その後の萌出再開)がエナメル芽細胞系譜と象牙芽細胞を含む歯髄・歯小嚢の構成細胞の増殖・機能分化および歯槽骨改造に及ぼす影響を明らかにしていく。本年度においては、切歯を顎骨にピン留め固定した萌出停止実験および停止後にピン除去を施した萌出再開実験を行い、萌出停止期間(3週から最長30週間)でのエナメル上皮・歯乳頭・歯小嚢細胞の増殖(BrdU取り込み)と機能分化(基質産生、細胞形態変化)を比較し、再開後のエナメル芽細胞の切端方向への位置移動の有無(萌出速度)と歯槽骨改造(TRAP/ALPの酵素組織化学)の誘導を調べた。エナメル上皮においては萌出停止が長期に及んだ場合に形成端での増殖活性は低下し、エナメル基質分泌も減弱した。ただし、歯小嚢形成端での細胞増殖と象牙芽細胞への分化は30週の停止期間を通して継続していた。このため、切歯形成端では過剰の象牙質堆積(歯牙腫様変化)も発生した。萌出再開シグナルはエナメル上皮の増殖活性を賦活化し、エナメル質と象牙質の形成速度の調和も回復する所見を得ている。ラット切歯の萌出停止後の歯質形成異常については、エックス線マイクロCT画像に基づく3次元立体構築を試みており、次年度において、3次元像での形態観察とともに、エナメル質・象牙質・歯槽骨の3組織要素を分離して定量的な形態計測を行う。
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