まずクローニングできたと考えられるデンチンシアロホスホ蛋白質(DSPP)遺伝子の塩基配列をサイクルシーケンス法により決定することを試みた。その結果、得られた遺伝子は他の生物種(マウス、ヒト)のそれと相同性が高く、クローニングした遺伝子がDSPPであると考えられた。しかしながら、同時期に他のグループよりラットのDSPP遺伝子のシーケンスが発表された。そのデータと比較すると、一部に全く異なる配列が存在することがわかった。このことは、どちらかのシーケンスが間違っている可能性と、部分的に塩基配列が異なるmRNAが複数存在する可能性とがある。そこで両方の可能性を考え、予定通り遺伝子導入の実験を進める一方で、再度遺伝子をとることを試みることにした。遺伝子導入の方は、まずDSPP遺伝子を最も一般的な哺乳動物細胞発現用プラスミドであるpBK-CMVに組み換え、大腸菌株XL1-Blueで増やすことを試みたが、増やせなかった。DSPP遺伝子の特異な構造が大腸菌の生長に悪影響を及ぼしている可能性が考えられたので、別の一般的な発現用プラスミドであるpc DNA3.1(-)に組み換え直し、大腸菌株SURE2を用いて再度試みたところ、今度はうまくプラスミドをとることができた。次にこれを、それ自体で石灰化能を示すマウスの骨芽細胞様細胞MC3T3-E1と、このMC3T3-E1細胞の培養上清存在下で石灰化する、ラット歯髄由来株化細胞RPC-C2Aとに導入し、G418耐性の複数の安定発現株を得た。これらについてノーザンブロッティング法によりDSPP mRNAの発現を、von Kossa染色ならびにカルシウム定量により石灰化度の違いを調べた。その結果mRNA量は増加しているが、石灰化度の変化は一様ではなかった。現在この原因究明、及び新たにDSPP遺伝子をとり直す実験を平行して進めている。
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