バソプレシン(VP)及びその代謝断片は従来より、学習、記憶の増強作用を持つと言われてきたが、その作用機序には不明な点が多かった。本研究の本年度の目的は、行動薬理学的手法を用いてこれらペプチドの作用機序の解明を行うことであった。実験は、作用が確実なバソプレシン代謝断片の新規合成物質 NC-1900を用いて行った。以下に申請時における実験計画目標とその達成状況、及び実験結果の概略を示す。 (1)VPによる記憶増進過程の解析:計画目標は概ね達成された。VP代謝断片である新規化合物NC-1900は回避系の課題において、学習(learning)、記憶保持(retention)、記憶の想起(retrieval)の3つの過程、全てにおいて増強作用をもたらした。また、報酬系の課題においては、保持、想起の増強作用が認められたものの学習においては、増強作用は認められなかった。 (2)各種glutamate receptorとVP及びVP代謝断片との関係について:計画目標は概ね達成された。回避系の課題において、NC-1900はmGluR1およびmGluR5を介して学習の初期の過程を増強させることが分かった。また、従来では記憶の過程において、不明な点が多かったmGluR2&3も学習課程に関与していることが示唆された。また、これらreceptorによる記憶障害に対しては、NC-1900による増強作用は認められにくかった。 (3)VPおよびVP代謝断片による記憶増強作用における逆行性伝達物質の役割について:目標達成度は6割程度である。現在、逆行性伝達物質の候補を検索中である。その中ではロイコトリエンが学習、保持の過程に関与することが回避系の学習課題において確認された。標本の作製については進行は遅れているが、来年度以降も続けたい。
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