研究概要 |
バソプレシンによる記憶増進作用は前年報告したV1 receptorのGqタンパクを介したホスホリパーゼ(PLC)Cやプロテインキナーゼ(PKC)Cの情報伝達系を介する経路の他に,cAMP/プロテインキナーゼA(PKA)系の情報伝達系も記憶強化初期段階において必要な事が行動実験系において示唆された。このcAMP/PKA系の増強は従来より記憶増強に関与することは報告されているが,この情報伝達系のみの強化は必ずしも記憶強化につながらず,記憶とこの情報伝達系の関係は逆U字関係にあることが本研究において推測された(Brain Res投稿中)。また,バソプレシン断片やこの新規類似化合物の投与によってcAMP/PKAの情報伝達系が低下した場合でも,記憶の増進が生じる可能性が示唆された。また,逆に,このcAMP/PKA系増強によって生じる記憶障害に対してはバソプレシン断片やこの新規類似化合物の投与はあまり効果が無く,現在,主流である抗痴呆薬ドネペジルの方が有効であった。 また,バソプレシシ断片やこの新規類似化合物は記憶の想起作用を有することは前年報告したが,想起作用を生じるには強化よりも大きい投与量が必要であることが判った(裏面発表論文に掲示)。 細胞保護作用に関してはグルタミン酸や過酸化水素によって生じる細胞障害がバソプレシン断片やこの新規類似化合物によって抑制されるが,V1 receptorを介したPLC-PKC系による経路が保護作用では主流であることが本研究によって明らかになりつつある。 現在も,細胞保護作用においてもcAMP/PKA系を抑制した条件によってバソプレシン断片やこの新規類似化合物による保護作用が生じるかを検討中である。
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