唾液分泌刺激によって唾液腺細胞では細胞内Ca濃度変化をはじめ、様々な情報伝達系が活性化されていると考えられる。我々はこれまで唾液腺の主たるCa結合蛋白質が分泌蛋白質であることを明らかにし、分泌顆粒も細胞内Ca貯蔵庫として機能しうる可能性を示唆してきた。しかしこれらの知見は組織をホモジェナイズして得られた懸濁液を生化学的に解析したin vitroでの結果でしかなく、細部レベルあるいは組織レベルでの検証が必要である。そこで本年度は、よりvivoに近くまた分子生物学的なマニピュレーションを行いやすいよう、分泌顆粒を有する唾液腺細胞株の樹立を行った。従来の唾液腺初代培養系では、腺房細胞を分泌蛋白を発現させたまま維持することは大変困難であった。そこで温度感受性SV40 large T抗原を導入されたトランスジェニックラットを利用した。このトランスジェニックラットに導入されている温度感受性SV40 large T抗原は、33℃で活性型、39℃で不活性型になるので、細胞は33℃培養下では脱分化して増殖に向かい39℃培養下で増殖が抑制され細胞は分化した形質を示すことが期待される。我々は33℃培養下で不死化した4系統の顎下腺細胞株を樹立することに成功した。うち1つの細胞株は39℃培養で分化を誘導することにより、腺房細胞に特徴的に発現しているCa結合分泌蛋白質を大量に有していることが明らかになった。樹立した細胞株は、カルバコール刺激によって細胞内Ca濃度の上昇も観察された。これらの結果から、我々の樹立した細胞株は分泌顆粒を持つ腺房細胞由来の株であると考えられる。さらに刺激に対する細胞内Ca濃度変化の応答性とCa結合蛋白質を保持していることから、我々の目的とするCa情報伝達系を研究する上で優れたツールとなる可能性が示唆された。
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