口腔乾燥症をきたす疾患としてはシェーグレン症候群が良く知られているが、それ以外にも実に様々な原因により口腔乾燥症が惹起される。本年度の研究では脂質の代謝異常と唾液腺機能障害との関連を調べる目的で、高脂血症における唾液腺の病態を画像診断学的手法ならびに血清学的手法を用いて解析した。 (方法) 口腔乾燥症状を有する高脂血症患者24名ならびにシェーグレン症候群患者50名を用い、(1)MRI、(2)唾液腺造影、(3)超音波診断、(4)口唇腺生検、(5)サクソンテストを行うと共にSS-A、SS-B、ANA、RF抗体値を測定し、両患者群を比較検討した。 (結果) (1)口腔乾燥症状を有する高脂血症患者のうち83%に耳下腺の腫脹、唾液分泌機能の低下のいずれか、あるいは両方が認められた。 (2)MR検査により、特に耳下腺の腫脹を伴った高脂血症患者において、耳下腺に広範に脂肪が沈着していることが示唆された。さらに、こうした患者においては口唇腺にも脂肪の沈着が著しいことが確認できた。 (3)しかしながら、シェーグレン症候群とは異なり、口腔乾燥症状を有する高脂血症患者においては、唾液腺造影所見に異常所見は全例認められなかった。 (4)血清学的検査においてもシェーグレン症候群患者の94%、68%、18%、および40%にそれぞれANA、SS-A、SS-B、およびRF値の異常所見が認められたのに対し、高脂血症患者においてはわずか4%にANA値の、また同じく4%にRF値の異常が認められたのみでSS-AならびにSS-B値に異常を示す患者は1名も存在しなかった。 (結論) 以上の結果より、高脂血症患者における口腔乾燥症の発症はシェーグレン症候群のそれとは全く異なるメカニズムで起こっている可能性が示唆された。 これらの結果を踏まえ、次年度では血中の総コレステロール値やトリグリセライド値と口腔乾燥症状との相関について研究を進める予定である。
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