本研究の目的は、ラットを使用した動物実験にて、骨欠損部に填入されたキチン-キトサンの生体内における吸収過程を明らかにすることであり、さらに、骨組織の創傷治癒過程を観察することによって、キチン-キトサンの骨誘導能を検討することである。 本研究から次のようなことが示唆された。 1.脱アセチル化度100%キチン・キトサン群における骨性創傷治癒は、コントロール群より速かった。 2.脱アセチル化度100%キチン・キトサン群における新生骨は、術後12ヶ月経過時には、元来の骨レベルまでほぼ完全に修復され、その骨小柱構造もコントロール群と比較して規則正しかった。 3.骨性創傷治癒において、脱アセチル化度35%および70%群は、コントロール群および100%キチン・キトサン群に比較して遅く、特に骨表層部では有意な相違が認められた。 4.脱アセチル化度が大きくなるに従って、キトサンの生体内吸収および骨の創傷治癒が速いということが明らかになった。 結論としてはラットにおける骨性創傷治癒に対してキチン・キトサンを用いた場合、脱アセチル化度70%以上のものが、術後9ヶ月以内に生体内吸収が認められる。 抜歯術、歯根尖切除術および歯周外科手術のような歯科臨床応用において、脱アセチル化度の高いキチンーキトサンは、骨性創傷治癒促進効果を有する可能性が本研究から示唆された。しかしながら、キチン-キトサンの分解酵素であるリゾチームは、脱アセチル化度が大きいものに対しては、効果的でないと報告されており、今回の結果は他の要因が大きく影響している考えられる。
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