口腔癌の手術後は顎骨欠損や歯牙欠損を伴い、咀嚼、嚥下、構音などの重要な口腔機能や審美性が著しく損なわれ、患者の社会復帰の障害となる。そのリハビリテーションの手段として、顎補綴治療が行われるが、特に上顎の顎補綴では、個々の症例に差があり、様々な治療経過、術後経過をたどるため、術者や施設により治療方針、治療評価が異なる。このため、顎補綴治療の限界や可能性が不明確な状況で治療が行われているのが現状であり、的確な診断、治療方針、治療評価を確立することが必要である。上顎顎補綴の研究としては、上顎欠損患者と補綴装置に関する実態調査、顎義歯の設計に関する模型実験、顎義歯の機能時の動態と下顎運動との関係などが行われてきた。また、顎義歯本体の動特性を明らかにするため、振動解析が行われてきた。 今回、顎義歯本体の振動解析結果との比較と顎義歯装着時の振動解析を行うための予備実験として、三次元有限要素法を用いて、顎義歯荷重時の応力分布について解析、検討した。実験モデルは上顎右側第一第二小臼歯、第一第二大臼歯欠損を伴う上顎右側部分切除症例を想定した。モデルの物性値ならびに栓塞部の設計はこれまでの報告を参考にした。栓塞部の形態を充実型、中空型、天蓋解放型の3種類とし、床の材質はレジン床のみとした。解析は、パーソナルコンピュータにて、汎用有限要素法解析プログラムCOSMOS/M(SRAC社/(株)大塚商会)を使用し、三次元線形静解析で行った。荷重点は顎義歯の左側第一大臼歯人工歯相当部に設定し、総荷重98Nの垂直荷重を付与した。直接維持装置として右側犬歯部、間接維持装置として左側第一第二小臼歯部、左側第一第二大臼歯部を拘束した。結果は、3種とも維持装置の基部に応力の集中がみられ、特に左側第一第二小臼歯基部への応力の集中が大きかった。今回の実験は解析ソフトに制限があり、モデル上にクラスプを設置することが出来なかった。今後は実験モデルをより詳細に作成するとともに、支持組織の性状、荷重条件、拘束条件、材質などによる影響についても検討していきたい。
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