研究概要 |
本研究は,誤嚥性肺炎の既往のある者に対して,肺炎発症の危険を増すような負荷を課す研究となっているため,その実施は慎重を期さなければならない。そこで本年度は,以前から良好な協力関係のとれている広島県内のある療養型病床群の入院患者を用いて,対象となる誤嚥性肺炎の既往のある者を選択するために,誤嚥の特徴を検討することとした,ここでは,3年前より嚥下造影検査ならびにそれに基づく摂食機能療法を実施しており,100名を超える嚥下造影検査記録が存在している。 これまでに嚥下造影検査の対象となった者を検討してみると,意識障害をもっている者が非常に多いことがわかった。これは,誤嚥性肺炎の発症理由から見ても当然のことと考えられる。そこで,これら意識障害のある摂食嚥下障害患者の特徴を明らかにし,義歯による嚥下機能の維持・改善の可能性があるかを検討した。 対象者は,平成11年8月から平成12年12月までに嚥下造影検査(VF)を行った者のうち,JCSにより意識障害があると判断された65歳以上の高齢者43名(男性28名,女性15名,平均年齢85歳)とした。 VF検査の結果,嚥下中誤嚥が12名に,嚥下後誤嚥が27名に認められ,誤嚥がなかったものは4名であった。嚥下中誤嚥のあった者のうち9名が,嚥下後誤嚥の考えられた者では16名が経管栄養法の適応であったが,うち9名は家族から経口摂取継続の希望があり,経管栄養への変更は行わなかった。 半年後の予後をみると,経管栄養法が必要と判断した者計25名中14名(56%)が死亡していた。経管栄養法が必要と判断した者のVF所見を検討すると,嚥下の口腔期に舌口蓋閉鎖が不良であった者が有意に多く,経管栄養を必要と判断した者25名中10名でこの舌口蓋閉鎖の不良が認められ,うち9名は半年以内に誤嚥性肺炎により死亡していた。 以上より,舌口蓋閉鎖が誤嚥性肺炎の発症に何らかの関与を果たしている可能性が示された。舌口蓋閉鎖の改善に義歯装着は有効である可能性があり,次年度はこの点に絞って,さらに検討を進めていく予定である。
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