研究概要 |
我々チタン系メタルボンドポーセレンにおいて,デギャッシング処理(前酸化処理)で生成したルチル構造のTiO_2表面酸化物層が陶材焼成後消失し,TiO相やTi_2O_3相などカチオン価数が低い酸化物が陶材側の反応層中に生成されることを見出した.カチオン価数の変化は酸化還元の化学反応が関与していることを示しており,チタン原子の電子状態を評価するためEELS分析を行った.電界放射型電子銃を備えた透過型電子顕微鏡を用いて約1nmのビーム径で陶材側反応層とチタン側の界面部分のEELS測定を行った.チタンL線の吸収端近傍のELNES領域で約1eVのケミカルシフトやチタンL_3線とL_2線の強度比の変化などを見出した.EELS測定結果を定量的に評価するためELNESピークのピークフィッティングを行った.その結果,界面のチタン側と比較して陶材側ではピーク位置が高エネルギー側に1eVシフトしており,内殻レベルが深くなっていることを示していた.またL_3/L_2の強度比は陶材側で低下していたが,マンガンやコバルト酸化物ではカチオン価数が大きくなると強度比が低下することが報告されており,陶材側でチタンのカチオン価数が大きくなっていると考えられた.またピークの半値幅は陶材側で広がっていた.カチオン価数が大きくなると原子核からの引力がより強く電子に働き,電子のエネルギー準位は深くなると考えられるので,ケミカルシフトの方向と強度比の変化はよく対応している.またTiO相と比較してTi_2O_3相やTiO_2相ではTiO_6の八面体クラスターは歪んでくるため結晶の対称性が低下し結晶場分裂が生じ,ELNESピークも広がりを示すと考えられる.組織観察で見られた陶材側でカチオン価数が高い酸化物が見られる傾向ともよく一致する.今後より多くの観察を行い,観察部の結晶の同定も行い,界面の電子状態密度を詳細に調べる予定である.
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