研究概要 |
加齢に伴い,全身機能の機能低下する高齢者の口腔内環境は劣化し,喪失歯数は増加していく.現在,喪失部位へ補綴装置を装着することにより機能を維持している.しかし,リスクが増加していく高齢者が口腔内環境の改善を行わず,義歯装着による環境変化にも対応しなければ,リスクが増加するばかりである.そこで本研究は,装着されている補綴装置別に口腔内環境因子(唾液性状,口腔内状況,口腔内常在細菌,生活環境)を比較検討し,解明することを目的とした. 被験者は,本学附属病院を受診した補綴修復処置を受けている65歳以上の高齢者とした.患者には検査前に本研究の趣旨を説明し同意が得られた者のみとした.口腔内診査による,補綴装置の種類(固定性か可撤性か),数,人工歯部の数(喪失歯数)を調査した.口腔内環境の評価項目は,安静時唾液量,その緩衝能,刺激唾液量,その緩衝能,歯周疾患病勢判定,齲蝕原性細菌(mutans streptococci,Lactobacilli),真菌(C.albicans属),プラーク付着能,常時服用している薬剤数,一日の食事回数,ブラッシング回数とした.被験者を固定性(クラウンブリッジが装着されている有歯顎者)と可撤性(可撤性の床義歯が装着されている床義歯装着者)の補綴装置の種類で分類し,12の口腔内環境因子をカイ二乗検定を用いて比較した.両群間を比較した結果,残存歯のプラーク付着能,mutans streptococci, LactobacilliおよびC.albicans菌数に差が認められた.可撤性の床義歯装着者群では残存歯のプラーク付着量,細菌量が多く,ハイリスク者が多く認められた. 同様の方法で補綴装置の装着された20歳代以降の患者の口腔内環境を検査し,年齢層が異なっていても臨床にて応用可能かどうか判定した.20代以降の患者の口腔内環境を装置別に比較した結果,可撤性の補綴装置装着者ではLactobacilli菌数が多い傾向が認められた.しかし,残存歯のプラーク付着能,mutans streptococciおよびC.albicans菌数においては両群に差が認められる傾向はなかった.これは,固定性の補綴装置装着被験者が20代に多く,一方可撤性の補綴装置装着者が50代以降に集中したためバイアスが生じたと考えられる.そのため被験者を増やし,各年代層別で再び検査していく必要があると考えられる.
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