本研究の目的は、遺伝子導入法による、確実で簡便な、そして安全な骨修復法の確立を検討することである。今日の遺伝子治療の多くはvirus vectorによるものであるが、そのvirus vectorは導入効率が良い反面、免疫反応やタンパク発現に対する制御の問題など、危険性を兼ね備えている。本研究において昨年度までに、古典的で簡便なリン酸カルシウム法と生体親和性の高いコラーゲンゲルを応用することによって、安全性が確立されている発現プラスミドベクター(pEGFP)のrat骨膜下への遺伝子導入が確認された。またその遺伝子導入は、限局していた。 今年度は骨誘導因子として知られるヒトBMP2の遺伝子を含む発現プラスミドベクターを通法にようてリン酸カルシウムとの混合溶液を作製した。さらに昨年度と同様に生体親和性の高いコラーゲンゲルを用い、凍結乾燥にて円柱状の「ペレット」を作製した。 10週齢雄Wister ratの頭頂骨骨膜下に「ペレット」を埋入し一定期間飼育後、組織切片を作製した。頭頂骨のペレット埋入部位に限局して、骨芽細胞の増殖および骨様石灰化組織が観察された。 また、本研究の目的の1つである細胞の立体培養を確立すべく、pEGFPを導入した培養骨髄細胞を、多孔質ハイドロシキアパタイトと共に培養液中に12時間浮遊させた。蛍光顕微鏡によって多孔質ハイドロシキアパタイト内部に蛍光が観察されたことから、細胞の立体培養の可能性が示唆された。 本年度の研究結果から(1)リン酸カルシウム法を応用したプラスミドベクターのBMP2のin vivoにおける遺伝子導入によってrat頭頂骨上に骨様石灰化組織が形成された。 (2)多孔質ハイドロシキアパタイトを用いた、細胞の立体培養の可能性が示唆された。 In vivoの遺伝子導入法において、リン酸カルシウム法を応用した実験例は報告されていない。この方法が確立されれば、確実で簡便な、そして安全で安価な組織再生法の一つとして利用される可能性が高い。また、選択された細胞の遺伝子導入後の立体培養が可能となると、in vivoの限局された部位において積極的な組織再生を期待出来る。今後も本研究結果をふまえ、確実で簡便な、そして安全な骨修復法を目指し、歯科治療における機能回復および患者のQOLの回復に貢献して行きたい。
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