下部食道括約筋(lower esophageal sphincter ; LES)の収縮・弛緩の調節因子として、筋層間神経叢から放出される一酸化窒素(NO)が注目されている.われわれはウサギLESを用いた実験系で、ミダゾラム及びケタミンがNO-cGMP系の調節作用を介して内因性NOを介するNANC弛緩反応を抑制することを明らかにし、これらの静脈麻酔薬がNO産生過程を抑制する可能性について報告した.本研究では第一に、これら静脈麻酔薬によるNANC弛緩反応の抑制がNO合成酵素(N0S)阻害作用に基づくものかどうかを検討した.第二に、1群抗不整脈薬メキシレチンがNANC弛緩反応に及ぼす影響について検討した. NOS活性は、[^3H]-arginineから[^3H]-citrullineへの転換反応を利用して測定した.マグヌス法により輪状筋方向の等尺性張力変化を記録し、atropine、guanethidineの存在下にKClを投与してNANC弛緩反応を誘発した.外因性NO供与体としてdiethylamine NONOate (DEA-NONOate)を用いた.ミダゾラムは濃度依存的にNOS活性を抑制し、3×10^<-5>Mではnegativecontrollevelまで抑制した.ケタミンおよびメキシレチンはNOS活性に影響しなかった.メキシレチンはNANC弛緩反応を濃度依存的に抑制したが、DEA-NONOateによる弛緩には影響しなかった.メキシレチンのNANC弛緩反応抑制のED50値は4.4×10^<-6>Mであり、ミダゾラムによるED_<50>値と近似していた. 以上の結果より、ミダゾラムによるNANC弛緩反応の抑制はNOS活性の抑制に基づくことが明らかになった.ケタミン及びメキシレチンによるNANC弛緩反応の抑制には、NOSを介さないメカニズムが考えられた.
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