頭頸部癌細胞株は正常細胞に比較し、転写因子であるNF-κBの活性が増強していること、そしてこの増強機構にはIKK活性の上昇が関与していることを明らかにした。また、当教室において樹立した頭頸部癌細胞株B88細胞のNF-κB活性をmutant IκB-α cDNAを導入することにより抑制した細胞株を樹立した。mutant IκB-αはリン酸化部位が変異しているためリン酸化を受けず、その結果、NF-κB活性を持続的に抑制することが可能である。mutant IκB-αが発現し、NF-κB活性を抑制した細胞株ではコントロール細胞に比較し、血管新生因子であるIL-1、IL-6、IL-8、VEGFの発現の抑制と血管新生を抑制することにより、ヌードマウスでの腫瘍増殖能の低下を誘導することを明らかにした。すなわち、頭頸部癌細胞においてNF-κB活性を抑制するような抗癌剤は癌細胞の血管新生を阻害し、より効果的な治療効果を期待できると考えられる。 一方、頭頸部癌の化学療法の際、用いられるシスプラチン(CDDP)、5-フルオロウラシル(5-FU)は癌細胞にアポトーシスを誘導する。このとき5-FUの抗腫瘍活性のメカニズムの1つにNF-κB活性の抑制を介したアポトーシスのシグナルが存在していることを明らかにした。しかし、CDDPには、NF-κB活性を介したアポトーシスのシグナルは検出できなかった。すなわち、5-FUとCDDPによるアポトーシス誘導においてNF-κBの制御の点からその効果的なレジメンの構築は可能と考えられた。
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