Tuberous sclerosis(結節性脳硬化症:精神薄弱、てんかん発作、脂腺腫、大脳皮質の結節硬化、腎腫瘍からなる症候群)は、染色体16番に存在するTSC2遺伝子の異常によって発症し、TSC2遺伝子産物tuberinは、細胞周期制御因子p27^<Kip1>の機能発現に必要であることが明らかにされている。本研究では、TSC2の過剰発現ならびに発現抑制が、ヒト口腔扁平上皮癌細胞B88の増殖及び放射線感受性に与える影響につき検索した。RatTSC2cDNA(癌研・樋野興夫先生より供与)をpcDNA3.1にセンスあるいはアンチセンス・オリエントに組み込んだ発現ベクターを作製しB88に導入した。MTT assay、in vivoヌードマウスモデルにて各トランスフェクタントの増殖能、放射線感受性を検索し、Western blottingにて各トランスフェクタントにおける細胞周期制御因子の発現を検索し、さらにClonogenic assayを施行した。その結果in vitroならびにin vivoにおいて、tuberin過剰発現株(B88-TSC2)は空ベクター導入細胞(B88-neo)に比して有意にB88の増殖を抑制し、放射線感受性は高く、またtuberin発現抑制株(B88-TSC2RV)はB88-neoに比してB88の増殖を促進し、放射線感受性は低下傾向にあった。さらにB88-TSC2ではp27^<Kip1>蛋白の発現増強ならびに、Rap1及びcyclin D1の発現減弱を認め、B88-TSC2RVではp27^<Kip1>蛋白の発現減弱ならびに、Rap1及びcyclin D1の発現増強を認めた。以上より、TSC2は細胞周期制御因子であるp27^<Kip1>、Rap1及びcyclin D1の発現制御を介して口腔扁平上皮癌細胞の増殖抑制ならびに放射線感受性に関与している可能性が示唆された。
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