乳歯は歯冠形成から生理的な歯根吸収による脱落にいたるまで、永久歯と比べ短期間で劇的に変化する。乳歯の各ステージでの歯髄の状態を把握することは、臨床の上で非常に有意義であるが現在不明である。 現在、歯髄の客観的診断法として、電気歯髄診、冷熱診およびX線写真などが利用されている。しかし、それらの方法は診査時に痛みを伴い患児の協力を得られないことが多く、客観的な診断を困難にする。だが、レーザードップラー血流計を用いたヒト歯髄血流測定は、痛みを伴わず歯髄の状態を生理学的な観点から把握できる。本研究ではレーザードップラー血流計を用い、ヒト乳歯歯髄血流の経年変化を測定し、明らかにすることを目的とした。 測定に先立ち被験者および保護者に測定方法を十分に説明し、測定に関する承諾書を得て行った。測定は1本の歯につき10分程度で、拘束時間は30分程度であった。被験者に痛みや不快感などを極力生じさせないように配慮した(本学歯学研究科研究倫理委員会の承認を得た)。 現在、本研究から以下のような知見が得られた。 X線写真で乳歯歯根吸収の状態を確認し、歯根未吸収群、歯根2/3以下の吸収群および歯根がほぼ吸収した群の3群に分類した。歯根吸収が進むにつれて乳歯歯髄の平均血流量は減少する傾向が認められた。 患者の年齢により4歳群、5歳群および6歳群の3群に分けて、乳歯歯髄の平均血流量を比較した。加齢にともない平均血流量は低下していく傾向が認められた。 同一患者の乳歯歯髄の平均血流量の経年変化も、加齢にともない減少する傾向が認められた。 本研究により、乳歯歯髄血流測定は患者を電気歯髄診による痛みあるいはX線被爆をさせることなく、乳歯の歯根吸収を判定する新しい診断法となる可能性が示唆された。
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