CL/Frマウスは、口唇口蓋裂を15〜40%の頻度で発症する。口蓋棚の間葉細胞を含む様々な組織に発現し器官形成に重要な役割を果たすPax9遺伝子を口蓋棚成長のマーカー遺伝子として用い、CL/Fr胎児における口蓋裂の発症と口蓋棚におけるPax9遺伝子の発現との関係を調べた。 [材料と方法]実験群としてCL/Fr両側性口唇口蓋裂胎児(CL/Fr-BCL)およびCL/Fr正常胎児(CL/Fr-Normal)を、対象群として口唇口蓋裂抵抗性マウスC57BL/6胎児(C57BL)を、それぞれ胎生13.5日、14.5日および15.5日の各日齢において準備した。Pax9mRNAの口蓋棚における発現パターンをC57BL、CL/F-Normal及びCL/Fr-BCLの間で比較するため、作成したDigoxygenin標識RNA probeを用いてwhole mount in situ hybridizationを行なった。 [結果と考察]実験期間において、C57BLとCL/Fr-Normalの口蓋棚の成長を比較検討するために前頭面組織切片による組織学的観察を行なったところ、CL/Fr-Nomalの口蓋棚の成長は、対照群のC57BLと比較して半日から一日遅れていた。この結果に基づき、口蓋棚の成長段階を癒合前後に分けて、Pax9の発現を、C67BLとCL/Fr-Normal、およびCL/Fr-BCLの間で比較した。結果は、C57BLとCL/Fr-Normalは似通った発現パターンを示した。つまり、Pax9遺伝子は、口蓋の癒合前に口蓋棚の内縁領域に発現し、癒合開始とともにこの発現は消退していった。それに対し、CL/Fr-BCLでは、正常群(C57BL及び(CL/Fr-Normal)と同様に、Pax9は癒合前の時期に口蓋棚の内縁領域に発現するが、この領域の発現は、更に1日以上続いた。これらの結果は、口蓋棚の癒合と口蓋棚でのPax9の発現には関連があることを示している。以上の結果の一部は、第79回国際歯科学会(千葉、2001年)にて発表し、論文投稿中である。CL/Fr-8CLの口蓋棚においてPax9が発現を続けるメカニズムとして、口蓋突起が癒合しなかったことによる上皮からのsignalingの変化が、間葉のPax9の発現に影響を与えていることが考えられた。現在この仮説を確かめるために、口蓋棚の器官培養を行い、更に上皮に発現しPax9の上流と考えられる遺伝子の発現を検索中である。
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