研究概要 |
佐体親和材料であるコラーゲンの象牙質への応用は、細管内液の抑制を目的としたものであり、既に我々は象牙質表面へのコラーゲン処理が象牙細管内液の浸出を抑制し、かつ接着性レジンモノマーの象牙質表面への浸透は妨げないことを報告している。今年度の研究の目的は、コラーゲン応用後の象牙質に対し接着性レジン修復を行った場合、その直後から接着界面に生じる微少変化を長期的に観察することである。主に歯質とレジンとの接着界面に生じる脆弱部の経時的変化について、色素浸透性試験により辺縁漏洩の発生頻度、程度を、接着界面の光学顕微鏡観察により窩壁適合性を、SEM観察により脆弱部位の微細構造の変化について検討した。 牛下顎永久前歯唇側面に残存象牙質が0.5〜1mmになるように直径約3mmの円形窩洞を二ヶ形成し、片側を実験側(コラーゲン処理側)、他方をコントロール側とした。接着性レジンには、All Bondllシステム、コンポジットレジンには、Clearfil-AP-X(A2)を用いた。コラーゲン溶液は既報と同様に0.3%タイプIコラーゲン(Cellmatrix I-A)を調整し最終PHを7とした。実験側では、プライマー処理の前にコラーゲン溶液5μlをマイクロピペットを用いて窩底全体を覆うように滴下し、37℃の恒温槽中に60秒間静置した。以下の操作はコントロール側と同様である。レジン填塞の際は重合収縮を可及的に抑制するため積層充填を行い、各々に対し40秒間の光照射を行った。作成した試料は蒸留水中に浸漬し37℃の恒温槽内に静置、24時間後、3週間後,5ヶ月後の色素浸透性の判定と接着界面の観察に供した。各試料数は6である 色素浸透性試験の結果、案験側もコントロール側も経時的にスコアが大きくなる傾向は認められたが、その値はいずれも小さく、両群間に有為な差はなかった。コラーゲン処理を行うことによるエナメル質マージンへの悪影響は認められなかった。光学顕微鏡検鏡(200倍)の結果、実験側はコントロール側とほぼ同様の傾向であり良好な窩壁適合性を示していた。いずれも5か月例でギャップの発生頻度が高くなったが、その幅は微小であった。発生部位は多くは隅負部または窩底部で、エナメル質とレジンとの界面は5ヶ月例も含め全例について良好であった。SEM観察の結果においても、実験側とコントロール側との相違は認められなかった。両群とも乾燥による影響を受けたと考えられ、E-D junctionから象牙質側の接着界面での破壊が全例において認められ、5ヶ月例ではエナメル質側も一部破壊が認められた。これらの多くはハイブリッド属の上部で破壊を生じており、コラーゲン処理の有無に関わらず最も脆弱な部はレジン-ハイブリッド層間であると考えられた。以上の結果より、コラーゲン処理は接着の長期安定性に悪影響を及ぼさないと考えられる。以上の結果は、平成14年度6月小児歯科学会総会にて発表予定である。
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