感染性心内膜炎の主要な原因菌はビリダンスレンサ球菌(60%)であるが、う蝕細菌として知られているStreptococcus mutansも、その原因菌の一つとして注目されている。 S.mutansの菌体表層多糖抗原はポリL-ラムノースの骨格とD-グルコースの側鎖からなっているが、近年この菌体表層多糖抗原が、S.mutansの病原因子として注目されている。 S.mutansの菌体表層多糖抗原のD-グルコースの側鎖がない変異株(S.mutans Xc45)、ポリL-ラムノースの骨格とD-グルコースの側鎖全てがない変異株(S.mutans Xc41)、および野生株(S.mutans Xc)を用いて、S.mutans菌体表層多糖抗原が、この菌種の心内膜損傷部への定着因子であるかどうかを、ラットにおける感染性心内膜炎発症実験にて検討した。全身麻酔下にて、体重350〜400gの成獣雄ラットの右頚動脈からヘパリン処理したカテーテルチューブを挿入し、先端を左心室まで到達させた。24時間後に、3種の菌体の生理食塩水懸濁液を、それぞれ尾静脈より注射した。3日後、全身麻酔下にて心臓と動脈血を採取した後、実体顕微鏡下で心臓内の血栓の有無を確認し、血栓がある場合はこれを生理食塩水でホモジナイズして、BHI寒天平板培地にそれぞれ播種した。37℃で48時間嫌気的に培養した後、プレート上に生じたコロニー数を算定した。動脈血も同様に希釈、培養後、コロニー数を算定した。感染性血栓陽性動物の割合は、野生株のS.mutans Xcで81.8%、変異株のXc45で60.0%、Xc41で25.0%であった。血栓1mgあたりのLog_<10>CFUの平均値は、順に3.09、3.14、2.92であった。菌血症陽性動物の割合は、順に27.3%、0%、0%であった。以上のことより、S.mutans菌体表層多糖抗原の有無は、心内膜損傷部への定着に影響を与えている可能性が示唆された。
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