研究概要 |
我々は成人性歯周炎の原因菌の一つであるPorphyromonas gingivalis (P. gingivalis) が産生するプロテアーゼ(PgPepO)が血管内皮由来の収縮因子の一つであるendothelin-1(ET1)の産生を触媒する酵素であるendothelin-converting enzyme(ECE1)と遺伝子構造的に相同性が高く,類似した性質を有していることを明らかにした(FEBSLett. 460:139-144,1999).最近,様々な報告により,ET1は,動脈硬化性血管病変の形成とならび,炎症性病変に対しても関与していることが明らかとなってきた.我々の研究においても,歯周炎を有する歯周上皮組織中では,炎症のない組織と比較してET1のmRNAレベルの発現が高くなりなることが認められ,また上皮細胞の一つであるHep-2において,P. gingivalisの感染によりET1のタンパク質レベルでの発現が上昇することを明らかにした(Crin. Sci. in press).また一方,まだ報告はしていないが,歯周炎を有する歯周組織中では血管内皮由来の弛緩因子の一つであるNOの産生のマーカーの一つであるiNOSの発現が,ET1の発現と関連していることを示唆できる結果も得ている.このように歯周炎の病態にET1とNOが相互に関連して何らかの影響を与えていることが我々の研究より示された.PgPepOがこのような現象にどう関わっているかは,現段階では明らかになっていないが,PgPepOは菌体外に分泌されることを,ECE1のモノクロナール抗体を使って確認しており,歯周炎の発症に何らかの影響を与えていることが推測される.現在,PgPepOのポリクロナール抗体の作製は終了しており,P. gingivalis内外におけるPgPepOの局在性の検討と併せ,歯肉上皮細胞を使って,IL1やIL-8などの他のサイトカインとの関連を検索中である.来年度の研究計画の概要であるが,歯肉上皮細胞と併せ,血管内皮細胞におけるP. gingivalis感染ならびにPgPepOの影響を,ET1,iNOS,サイトカインの発現を指標に検索し,歯周病原性細菌が動脈硬化性血管病変の発現に関与するメカニズムを解明していく予定である.
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