研究概要 |
近年、う蝕の減少化という社会情勢を受けて、集団に対する画一的な指導から、患者個人にあわせたう蝕予防指導を行おうとする試みとして、唾液を媒体としたう蝕活動性試験のデータを生かした、患者個人にあった予防プログラムを立案することが頻繁になされている。しかしながら、試験方法がカリオスタットなどの簡易なう蝕活動性試験と違って、小児にとって難しいこともあり、小児のデータが少ないのが現状である。そこで唾液を媒体としたう蝕活動性試験を用い歯種、歯面別にのう蝕発生要因を調べるのに先立ち,小児のう蝕活動性試験の特徴を調べた。 被験児は頻繁にう蝕を繰り返しており,う蝕活動性が高いと考えられている小児である。通法に従い被験児の唾液を採得し,唾液分泌量、唾液分泌速度、緩衝能試験、唾液中のStreptococcus mutans量、唾液中のLactobacillusの量試験を行った。その結果、唾液分泌量とStreptococcus mutans量においてHigh riskであり,緩衝能とLactobacillusの量試験においてLow riskであった。熊谷らは,小児の唾液腺における緩衝能にかかわる細胞が未熟であるために,大多数の小児における緩衝能の評価は低い傾向にあると述べている。しかし、本研究結果では,全被験児が高い緩衝能を示した。一方、熊谷らの唾液分泌量が0.7ml/分以下の場合はHigh riskであるという基準に従って唾液分泌量を調べてみると,全ての小児がHigh riskであった。このことを考え合わせると小児は唾液分泌量が少ないために緩衝能が十分に生かされない可能性がある。つまり、小児において唾液の緩衝能試験は小児の重症う蝕を予測するファクターとして有用ではない可能性が示唆された。
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