歯周病はいまや生活習憤病の1つとして認識されているが、全身状態が歯周病の発症や進展におよぼす影響については報告が少ない。そこで今回は、実験的に骨吸収を惹起させる歯周病モデル(ラット)をもちいて、妊娠や授乳が歯周病の進行におよぼす影響について検討した。実験には62匹の雌ラットを用い、交配後3群に分けて各々カルシウム含有量の異なる飼料を与えた。実験開始後25日目に妊娠の有無によりさらに2郡に分けた。32日には右側下顎第一臼歯部の歯頚部に規格化されたゴム輪を挿入して、歯槽骨を吸収させた(実験側)。左側は、対照側とした。46日目にと殺して下顎骨を採取した。第一臼歯と第二臼歯の歯間隣接面部について、歯槽骨の骨密度および組織学的検索をおこなった。その結果、以下の知見が得られた。(1)対照側では、摂取する飼料のカルシウム含有量が少なくなるにつれて、骨密度の減少がみられた。妊娠群では、非妊娠群と比較してより減少の程度が大きかった。(2)実験側ではゴム輪の挿入による炎症性骨吸収がみられたが、対照側と同様に摂取する飼料のカルシウム含有量が少なくなるにつれて、骨密度の減少がみられた。妊娠群では、非妊娠群と比較してより減少の程度が大きかった。(3)組織学的所見より、妊娠群でも非妊娠群でも飼料中のカルシウム含有量の減少による骨粗鬆状態が観察された。しかし、カルシウム含有量の減少による影響については、対照側では歯槽骨の高さの変化が見られなかったのに対し、実験側では歯槽骨の高さの減少が明らかとなった。これらの知見より以下の示唆が得られた。(1)妊娠や授乳は、カルシウムが十分に摂取された状態では歯槽骨を減少させる直接のファクターとはならないが、摂取が不十分な状態ではリスクファクターになり得る。(2)歯槽骨吸収により全身のカルシウム需要が増大し、かつカルシウム摂取状態がよくない場合には、妊娠や授乳が歯槽骨を減少させるリスクファクターになり得る。
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