研究概要 |
キラリティーが有機分子の性質に大きな影響を与えることから,四面体,軸キラリティーがよく研究されてきた.これに対しラセンキラリティーはあまり研究されてこなかった.これは化合物を十分な量供給する方法がなかったためである.私は光学活性ヘリセンの大量合成法を確立し,ラセン低分子化合物の性質を調べる研究を展開している.今回,ラセンキラリティーの関わる不斉触媒と不斉分子認識を集中的に調べ,四面体,軸キラリティーの場合との比較を行った. ビナフチル形ヘリセンジオール配位子すべての異性体の合成に成功し,その分子構造をX線法によって確認した.この化合物は従来のビナフチル化合物の持つ軸キラリティーに加えてラセンキラリティーを有しており,6つの異性体が存在し得る.従って,ビナフトール化合物に多様性を付与できると考えた.この配位子を用いて金属との錯体形成を行い,不斉エン反応と不斉アルキル化反応を実施した.不斉誘起における軸キラリティーというラセンキラリティーの影響について調べ,興味深い知見を得た. 右ラセンよりも,左ラセン構造を有するヘリセンジアミンが右ラセン構造を有する二重鎖DNAとより強く相互作用することが分かった.これに関して,鎖状オリゴマーの2,3量体と環状オリゴマー3,4量体の段階的合成に成功した.ところで環状オリゴマー4量体については,適切な基質を選択すると一段階で80%以上の効率で合成可能であることを見出した.また,これらの化合物は有機溶媒中と水中で大きく立体配座を変える.
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