Myers-Saito型芳香環化反応により生じるデヒドロトルエンビラジカルはスピン-軌道相互作用により一重項となるため、対イオン的な挙動を示すと考えられている。このイオン的な性質はビラジカルの持つDNA切断能などの生理活性を著しく低下させることから、ビラジカルのラジカル性を高めるための分子設計指針の確立は重要な課題となっている。 今年度は、分子設計指針の確立を目標として、種々の置換基をビラジカルに導入し、その反応性を検討した。その結果、種々の電子吸引基をベンジル位に導入した場合、ビラジカルのイオン性が低下し、ラジカル的な反応性が著しく高まることを見いだした。電子吸引基の効果を理論化学的に検証するために電子供与基、吸引基を導入したビラジカルの完全活性空間法を用いた分子軌道計算を行ったところ、電子吸引基を導入した場合、ラジカル状態とイオン対の状態のエネルギー差が非常に大きくなり、イオン対が不安定化されることが分かった。また、一重項と三重項のエネルギー差(S-T splitting)も電子供与基を導入した場合に比べ小さくなっており、電子吸引基を導入することによりビラジカルのラジカル性が高まるという実験結果と良一致を示した。 これらのビラジカルはいずれも高いDNA切断活性を示したことから。現在、ビラジカル生成分子にトリガー機能を組み込み、種々の生体内反応により活性化されるビラジカル発生剤の開発を進めている。
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