研究概要 |
著者は,環状構造を有しかつ金属配位能を有するグリコファン類をデザインし、包接を利用したゲスト分子の取り込みと、その分子を基質として、金属で触媒される反応を行うことで、酵素様の機能を発現させる事を目的に研究を展開している。グルコース1,1-二量体であるトレハロースを母格に用い、金属配位部分にビピリジル基及びピリジン基を6位にエステルで結合させたグリコファンの合成を検討した。トレハロースの残りの水酸基をベンジルエーテルで保護したビピリジル型のグリコファンの場合、最終行程の水素添加による脱ベンジル化反応は、基質がパラジウムとの安定な錯体を形成する事で反応が阻害される事が分かった。目的の脱保護体の合成には至らなかったが、この結果はデザインした分子の金属配位能を証明する事になった。保護基をMPM基に変更し、DDQを用いる酸化的脱ベンジル化反応で目的のグリコファンを得る事に成功した。さらに大量合成に適した合成ルートの検討も行った。通常、糖の一級水酸基はTBS基やトリチル基を用いて保護される事が多いが、TBS基はコスト面で、トリチル基は脱保護時の反応条件の点でそれぞれ欠点がある。トレハロースの6位にトリチルエーテルを用いた場合、通常の脱保護条件では酸に不安定なグリコシル結合の分解を引き起こし低収率である。これは反応の進行によって生成するトリフェニルメチルカチオンが安定である為に、原料への逆反応が存在し反応時間が長くなる事が原因であると考えた。そこで生成するトリフェニルメチルカチオンを還元する事で平衡を生成物にずらすことを計画した。TMSOTf、トリエチルシランを用い反応を行ったところ、反応は僅か2分で完了し、グリコシル結合の開裂を全く伴うことなしに、目的の脱保護体を高収率に合成するが出来た。現在、環化エステル化反応による環状構造構築段階の、収率の向上を目指し各種条件を検討している。
|