研究概要 |
病原性大腸菌O-157の産生するベロ毒素は死亡率の高い溶血性尿毒症症侯群を引き起こすために大きな社会問題になっている。ベロ毒素が結合するヒトの細胞表面の受容体はスフィンゴ糖脂質Gb3である。ベロ毒素は受容体分子Gb3に結合した後,細胞内にエンドサイトーシスで取り込まれ,60sリボソームを破壊し,その毒性を発現する。したがって,ベロ毒素受容体分子Gb3の類似体はベロ毒素の細胞内への進入を食い止める阻害剤となりうる。スフィンゴ糖脂質Gb3の構造中でベロ毒素が強く認識するユニットはガラクトースがα1-4結合したガラビオース部分である。そこで,合成困難な糖鎖部分をパーフルオロヘキサンと有機溶媒による液-液分配抽出操作だけで精製できるフルオラス合成法により,迅速かつ大量に合成することに成功した。糖鎖部分のアノマー位はアリルエーテル修飾したので,オゾン酸化によりホルミル基に変換した。続いて,セラミドの代用ユニットとしてのホスファチジルエタノールアミンと還元的アミノ化条件によりカップリングさせ,最後に保護基を除去することにより,Gb3類似体を合成することに成功した。合成したGb3類似体のベロ毒素中和活性を測定したところ,1型(stx-1)のベロ毒素に対しては弱い中和活性しか観察されなかったものの,より毒性が強いとされる2型(stx-2)のベロ毒素に対してはナノモル濃度で中和活性を示した。今後,さらに強い阻害剤の開発を目指し,類縁体の合成研究を継続していく予定である。
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