研究概要 |
ナメクジの嗅覚中枢である前脳には約10^5個の神経細胞が存在し,これらが同期して膜電位振動を生じていて,これが局所場電位振動としても記録される.局所場電位振動に関しては,触角に対する嗅覚刺激により振動数が変調すること,学習させた匂いではより強い振動数変調が生じることなどが知られている.しかし前脳を構成する個々の神経細胞がどのような嗅覚応答を生じるかについては知られていなかった.そこで触角-脳標本を作成して単一の前脳神経細胞からパッチクランプ法による記録を行い,触角に対する嗅覚刺激時の活動を調べた.前脳で嗅覚性の求心性線維の投射を直接受けている細胞はnonbursting neuronであり,これらは周期的にbursting neuronから抑制性シナプス入力を受けている.匂い刺激を行うと,多くのnonbursting neuronでは発火頻度が減少したが,一部の細胞では発火頻度が増加した.発火頻度が減少した細胞では,膜電位の低下が見られたが,これは主にプラトー部分の電位の低下によるものであった.しかし一部の標本では匂い刺激によってnonbursting neuronに対する抑制性シナプス入力の頻度が増加し,それに伴って発火頻度の減少が生じた.これらの結果は,嗅覚入力によるnonbursting neuronの抑制が,nonbursting neuronの膜電位の定常的抑制によるものと,bursting neuronの周期的活動による抑制性シナプス入力の増加によるものとの2種類のメカニズムによって担われていることを示している.
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