我々は酵母シスプラチン耐性因子の検索を行い、Cin5およびYdr259cを同定している。一方、酵母にジアミド等に対する耐性を与える転写因子としてYaP1が知られている。両蛋白質は共にYaP1と非常に相同性の高い塩基性領域ロイシンジッパーを持ち、またYaP1による転写活性化を抑制することから、転写抑制因子であると考えられる。そこで本研究においては両蛋白質高発現によるシスプラチン耐性獲得機構の解明を試みた。 Cin5およびYdr259c高発現酵母の他の薬毒物に対する交差耐性について検討したところ、パラコートにも耐性を示すことが明らかとなった。両蛋白質は転写抑制因子であると考えられることから、両因子により発現が負に制御されている遺伝子の中に、シスプラチンやパラコート耐性に関わる因子があると思われる。そこでDNAマイクロアレイ法を用いて、両蛋白質により共通して発現が抑制される遺伝子群の同定を試み、6種の遺伝子の同定に成功した。これら遺伝子の欠損株を作成し、両薬剤に対する感受性を調べたところ、いずれもシスプラチンに耐性を示さなかったが、その中の1つであるspt7欠損酵母がパラコートに耐性を示した。またSpt7はヒストンアセチル化酵素複合体(SAGA複合体)のサブユニットの1つであることから、その複合体の活性中心であるGcn5の欠損株についても同様に検討したところ1パラコート耐性が確認された。以上の結果より、Cin5およびYdr259cはSpt7の発現を抑制することによりSAGA複合体のヒストンアセチル化活性を低下させ、酵母のパラコート耐性を引き起こしているものと考えられる。今回、シスプラチン耐性に関わる因子の同定には至らなかったが、これに関しては、シスプラチン添加時にCin5およびYdr259c高発現酵母において発現誘導に変動が見られる因子の検索等を行い解析中である。
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