昨年度までの検討により、Multidrug resistance-associated protein (MRP)2は小腸上皮において分化過程で誘導を受けることが示された。その生理的意義を明らかにする上で上流の転写因子をひとつひとつ調べることは重要である。そこで、本年度はMRP2のプロモーター領域について、小腸分化過程での転写制御メカニズムに関してIEC6細胞を用いて検討を行った。その結果、1.IEC6において、小腸分化促進転写因子のCdx2を細胞に強制発現させ、培養を続けることでMRP2の発現が誘導される 2.Cdx2を一過性に発現してもMRP2の発現は誘導されない 3.IEC6細胞においてMRP2のプロモーター領域に関して順次欠失させた場合においても有意に転写活性が変化する部位は見出されない ということが明らかとなった。以上の研究よりMRP2は確かに分化過程で誘導されるが分化の引き金となるCdx2による直接のMRP2プロモーター部位への作用では無く、むしろ分化過程における二次的な誘導と考えられた。MRP2は小腸に限らず他臓器においても分化時に誘導されることが知られており、Cdx2などの小腸特異的な分化因子よりむしろ、その下層に位置する臓器間で共通の転写制御因子によって制御されていることが示唆された。以上の結果は、今後の研究の進め方を決める上で有用な情報となると思われる。
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