本研究では、低酸素誘導アポトーシスの制御機構を明らかにすることを目的とし、本年度は、HIF-1、p53の関与するアポトーシスの制御機構の解析を中心に行い、以下の成果を得た。 1.野生型p53を発現しているMCF-7細胞では、低酸素処理により、p53の安定化、p53によって発現制御されるアポトーシス誘導因子Baxの発現誘導、これらに引き続いてアポトーシスが誘導されることを確認した。また、HIF-1複合体の発現について調べたころ、HIF-1αサブユニットについては、p53の誘導によく相関して低分子量型のものが増加してくること、またARNTサブユニットについても、この場合はやや遅れるが、アポトーシスの進行に伴って、やはり低分子量型のものが出現してくることを認めた。 2.高分子量型および低分子量型HIF-1αの生化学的な違いは、ホスファターゼ処理などによりリン酸化の違いであること、高分子量型が強くリン酸化されたものであることを明らかにした。 3.免疫沈降法によって、高リン酸化(高分子量型)HIF-1αはARNTと、低リン酸化(低分子量型)HIF-1αはp53と優先的に複合体を形成することを見い出した。 4.低酸素誘導のアポトーシスの際に起こるARNTの切断は、カスパーゼ阻害剤によって抑制されること、in vitroでARNTが活性型カスパーゼの直接の基質となることを明らかにした。 5.低分子量型HIF-1αの出現を抑制する阻害剤をスクリーニングし、HSP90の阻害剤ゲルダナマイシンが、低分子量型HIF-1αの出現を阻害し、アポトーシス誘導を抑制することを見い出した。
|