本研究は、神経細胞の生存維持や機能に関わるニューロトロフィンである脳由来神経栄養因子(BDNF)の遺伝子発現制御機構を解明し、BDNF遺伝子活性化薬剤スクリーニング法を確立することを目指している。なお、本研究は、初代培養大脳皮質ニューロンを用い、ルシフェラーゼレポーターベクターの遺伝子導入を主な手法として取り入れている。本年度の研究実績は次の通りである。1.BDNF遺伝子プロモーターIの脱分極に応答するエレメントの同定 BDNF遺伝子の4つのプロモーターのうち、プロモーターI(P-I)には、2つの異なる(proximal&distal)領域に応答エレメントが存在している。このうちのproximal領域内へ変異導入を行い、その転写活性を測定した。その結果、cAMP responsive element(CRE)様配列とその周辺数塩基が重要であることを明らかにした。2.P-I活性化に関与する転写制御因子の同定 1.によって明らかとなった領域をプローブにしてゲルシフト法を行った。その結果、CREに結合できる因子、特にATF/CREBファミリーに属する因子とupstream stimulatory factor(USF)の両者が結合していることが明らかとなった。これらのdominant negative変異体の過剰発現実験から両者がP-I活性化に関与しているという結果もすでに得ている。3.転写制御因子を活性化するシグナル伝達分子の解析 MAPキナーゼカスケードの阻害剤を添加することにより、脱分極によるCa^<2+>シグナリングがMAPキナーゼを介してP-I活性化を惹起していることが示唆された。
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