小腸上皮細胞の刷子縁膜に発現するペプチドトランスポータ(PEPT1)は、小分子ペプチドやペプチド類似薬物の吸収を媒介し、生理並びに薬物動態学的に重要な役割を果たしている。さらに近年、ペプチド結合を持たないバラシクロビルなど非ペプチド性化合物もまた、PEPT1に認識・輸送されることが明らかにされ、薬物送達システムの標的分子としても注目されている。一方、小腸上皮細胞の側底膜には、PEPT1とは異なる促進拡散型のペプチドトランスポータが発現し、ペプチド類似薬物の細胞から血管側への移行を媒介している。本研究課題では、1)小腸側底膜型ペプチドトランスポータによる非ペプチド性化合物の認識特性を解析するとともに、2)小腸と腎臓の側底膜型ペプチドトランスポータの機能特性について比較精査した。 1)小腸側底膜型ペプチドトラスポータは、PEPT1と同様にδ-アミノレブリン酸など非ペプチド性化合物を認識したが、一部の非ペプチド性化合物は認識しなかった。またδ-アミノレブリン酸の側底膜型ペプチドトランスポータに対する親和性やpHプロファイルは、ペプチド性化合物と類似していた。従って一部の非ペプチド性化合物は、PEPT1と側底膜型ペプチドトランスポータの協調的作用によって経細胞輸送を受けることが明らかになった。また両トランスポータの非ペプチド性化合物に対する認識性の差異は、側底膜型ペプチドトランスポータの遺伝子クローニングを行う際に、有用な知見であることが示唆された。 2)腎皮質切片や培養腎上皮細胞を用いた検討より、腎臓には小腸の側底膜型ペプチドトランスポータとは異なる新規ペプチドトランスポータの発現していることを見出した。両トランスポータは、ほぼ類似の基質特異性を有する促進拡散型のトランスポータであるが、基質親和性や輸送の方向性などが大きく異なっていた。この成果は小分子ペプチドやペプチド類似薬物の腸管吸収や腎動態を考える上で、有用な基礎的知見になりうると考えられる。
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