動脈硬化症では血管壁に脂質が異常蓄積することにより病巣が生じるが、この病巣形成のきっかけとして、血中の変性リポ蛋白がマクロファージに貧食された結果、中性脂質が細胞内に顆粒状に蓄積する「泡沫化」が着目されている。本研究の主眼はマクロファージ泡沫化のしくみを解明するための一助として、細胞内脂質顆粒に存在する蛋白を解析することにある。本年度の実績としては、動脈硬化病巣における泡沫細胞のモデルとして、マウスマクロファージ系細胞株J774に変性リポ蛋白を負食させてin vitroで泡沫細胞を調製し、この泡沫細胞を破砕後にショ糖密度勾配遠心法により分画することで細胞内脂質顆粒を単離した。次に、脂質顆粒に存在する最も主要な蛋白をトリプシン消化し、得られたペプチドのアミノ酸配列をエドマン分解法により決定した結果、この蛋白がadipose differentiation-relate protein(ADRP)であることが明らかとなった。ヒトADRPに対するモノクローナル抗体が入手できたが、この抗体はマウスのADRPを認識できなかったため、ヒト由来の培養細胞であり、かつ、脂質顆粒形成能の発達したHuH7細胞をもちいてADRPの細胞内分布を解析した。イムノブロット解析、および、間接蛍光抗体法による解析の結果、ADRPはHuH7細胞の脂質顆粒に局在することが示された。この細胞に0.6mMのオレイン酸を添加して培養したところ、脂質顆粒の形成が顕著に促進されたが、このときADRPの蛋白量が約4倍に増加するとともに、ADRPが巨大化した脂質顆粒の表面に存在することも示された。これらの結果から、ADRPの発現が脂質顆粒の形成に相関していることが示唆された。また、オレイン酸添加による脂質顆粒の形成促進はアシルCoA合成酵素の阻害剤によって抑制され、脂質顆粒形成へのアシルCoA合成酵素の関与が考えられた。
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