研究概要 |
平成13年度は電気生理学的検討を行った.具体的には,麻酔下ラットの海馬体歯状回顆粒細胞層から誘発電位を記録し,シイタケ由来で抗腫瘍効果をもつ多糖(β-グルカン)のレンチナンが長期増強(LTP)に及ぼす影響を検討した. レンチナンを経口投与(200mg/kg)しても低頻度刺激(0.03Hz)により誘発される集合活動電位の振幅に影響を与えなかったが,60Hz,20発のテタヌス刺激で誘導されるLTPを有意に増強した.LTPに対する効果はレンチナンの静脈内投与(0.2-10mg/kg)についても調べ,増強効果が10型の用量作用曲線を描き至適用量は1.0mg/kgであることを明らかにした.レンチナンによるLTP形成亢進は,100Hz,100発のテタヌス刺激を用いた場合は見られなかった.また,レンチナンに構造が類似している他のβ-グルカンを静脈内投与しても有意な増強効果は観察されなかった.以上の結果より,レンチナンはβ-グルカン中でも特異的に歯状回LTPの形成を促進することが示唆され,その増強には至適用量が存在し,条件刺激依存的な効果であることが明らかとなった. 次に,末梢に投与したレンチナンが中枢のシナプス活動を調節する機序を検討した.中枢のシナプス伝達または長期増強を調節する因子の候補として,血圧・心拍数・血中グルコース濃度・血中コルチコステロン濃度を挙げレンチナンがこれらに及ぼす影響を検討したが,有意な効果は見られなかった.コルチコステロンは副腎から放出されるホルモンなので,副腎摘出を施術したラットを用いた検討を行った.副腎摘出ラットではレンチナンのLTP増強効果が消失したが,外来性コルチコステロンはLTP増強効果を回復させた.以上の結果は,レンチナンによるLTP増強効果には副腎からコルチコステロンが放出される過程が必要であることを示唆する.
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