研究概要 |
私共は,ホルボールエステル(TPA)で誘導されるTIS(TPA-Induced Sequences)遺伝子群の一つであるTIS11が神経成長因子刺激時の初期応答遺伝子の一つであることを報告している.ごく最近,私共は,TIS11遺伝子の翻訳産物であるTIS11蛋白質が基本転写活性を増大させる転写促進因子であることを報告した.そこで,TIS11蛋白質は,核内へ移行して,はじめて転写調節機能を発揮することから,TIS11の核-細胞質間輸送機構を解析することは,TIS11の転写制御を理解するうえで重要な研究課題になると考えた.今回,TIS11の細胞内局在について解析を行い,以下の結果を得た. 1.TIS11発現ベクターをCOS-7細胞に導入した場合,定常状態ではTIS11は核と細胞質に存在したが,leptomycin B(核外輸送担体CRM1の阻害剤)処理によって核外輸送経路を遮断すると核内に局在した.この知見は,TIS11が核と細胞質間をシャトルしていること示している. 2.TIS11のZn^<2+>フィンガー領域が核内移行に必要となるシグナル領域として機能することが判明し,核内移行活性に必須となる二つのアルギニン残基が同定された. 3.TIS11のN末端近傍に核外移行シグナル領域が存在し,このシグナル領域の核外移行活性はleptomycin Bにより阻害された.この知見から,TIS11は,そのN末端のシグナル領域にCRM1が結合することによって,核外輸送されることが示唆された. 本研究により,TIS11の核-細胞質間輸送機構の一端を解明することができ,今後は,TIS11の核内移行に関与する輸送担体を同定するための研究を行いたいと考えている.
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