ノーウォークウイルスはヒトに感染して急性胃腸炎(下痢症)を引き起こす。生カキ等の喫食による集団食中毒の原因ウイルスとしても注目され、小型球形ウイルス(SRSV)としてよく知られている。本ウイルスは細胞培養系で増殖させることができず、生化学的、分子生物学的研究はほとんど進展していない。本研究では、本ウイルスによる下痢症の治療薬開発を目指し、ノーウォークウイルスのひとつ、チバウイルスを研究対象とし、そのゲノムにコードされる3C様プロテアーゼの構造機能解析を行った。まず、本プロテアーゼの活性中心アミノ酸の同定を行った。本プロテアーゼはキモトリプシン様酵素であることに着目し、変異導入解析を行ったところ、His30とCys139の2アミノ酸残基から成る活性中心(catalytic dyad)を有することが明らかになった。キモトリプシン様プロテアーゼの活性中心は通常catalytic triadであり、この点でノーウォークウイルス3C様プロテアーゼはユニークである。この結果を検証し、コンピュータに基づいた創薬を可能にするためには、3次元立体構造の解明が必要になる。次いで、本プロテアーゼの立体構造をX線結晶構造解析で明らかにするために、結晶化を行った。N末端にHisタグを導入した本プロテアーゼを精製し、結晶化を行ったところ、結晶解析に供与しうる結晶を得ることができた。また、メチオニンの代わりにセレノメチオニンを導入したプロテアーゼの結晶も得られた。
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