ノーウォークウイルスはヒトに感染して急性胃腸炎(下痢症)を引き起こす。生カキ等の喫食による集団食中毒の原因ウイルスとしても注目され、小型球形ウイルス(SRSV)としてよく知られている。本ウイルスは細胞培養系で増殖させることができず、生化学的、分子生物学的研究はほとんど進展していない。本研究では、本ウイルスによる下痢症の治療薬開発を目指し、ノーウォークウイルスのひとつ、チバウイルスを研究対象とし、そのゲノムにコードされる3C様プロテアーゼの構造機能解析を行った。まず、本プロテアーゼがHis30とCys139の2残基から成る活性中心(catalytic dyad)を有することを明らかにした。キモトリプシン様プロテアーゼの活性中心は通常catalytic triadであり、この点でノーウォークウイルス3C様プロテアーゼはユニークである。更に精製酵素を用いて生化学的性状を調べたところ、至適pHが9.0付近、至適温度は37℃、低塩濃度(〜25mM NaあるいはK)で比較的活性が高い、2価陽イオン非依存性などが明らかになった。次いで、本プロテアーゼの立体構造をX線結晶構造解析で明らかにするために、結晶化を行った。N末端にHisタグを導入した本プロテアーゼを精製し、結晶化を行ったところ、結晶解析に供与しうる結晶を得ることができた。X線照射実験を行い、現在4.5Å程度の解像度のデータを得ている。
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