糖蛋白質上の糖鎖は蛋白質の物性や相互作用に影響し、分解酵素等に対する感受性を変化させることが知られることから、アルツハイマー病(AD)においてもアミロイド前駆体蛋白質(APP)の糖鎖変化がAPP異常代謝の要因となる可能性が考えられる。そこで、APP代謝異常に糖鎖が関与しているか検討するため、家族性ADに見られるアミノ酸変異によりAPPの糖鎖が変化するか調べた。 正常型(Wt)と2種類の変異型APP695[ロンドン型(ΔF):Val642Phe、スウェーデン型(ΔNL):Lys595Asn/Met596Leu]を神経由来培養細胞で発現し、各APPのN-結合型糖鎖を分析し比較した。その結果、各APP由来糖鎖は2本鎖及び3本鎖複合型が主要糖鎖であったが、正常型と変異型でbisecting GlcNAc及びFucoseを有する糖鎖の存在比が大きく異なっていた。Bisecting GlcNAcを有する糖鎖の存在比はWtで1.7%、ΔFで13.2%、ΔNLで15.0%、Fucoseを有する糖鎖の存在比はWtで14.0%、ΔFで34.4%、ΔNLで49.8%であり、変異型APPでは正常型に比較してbisecting GlcNAcの存在比が約8倍、Fucoseの存在比が約2〜3倍も高いことが明らかとなった。また、この糖鎖変化は2つの変異型に共通していることから、糖鎖がAPP代謝に影響する可能性、特にbisecting GlcNAcとFucoseの増加がAβの産生増加に関与している可能性が示唆された。この結果から、弧発性ADにおいてもAPPの糖鎖変化によりAPPの代謝異常が誘導されている可能性が考えられる。来年度は、APPの糖鎖リモデリング、即ち糖転移酵素の発現を細胞レベルで制御し特定の糖鎖を持つAPPを発現させることにより、bisecting GlcNAcやFucose付加のAPP代謝への影響を検討する。
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