研究概要 |
我々は、分子動力学法による立体配座集団のサンプリングと3次元データベース検索法を組み合わせたタンパク質に対する薬物の結合様式決定法を考案し、ヒト血清アルブミン(HSA)-薬物複合体を用いて、手法の検証を進めてきた。 HSAは、主としてサイト1、サイト2という二つの薬物結合サイトを持つ。これらの結合サイトは、通常の酵素などの結合サイトとは異なり、R-体、S-体の両方の薬物が結合することが知られている。このため、薬物がラセミ体として投与された場合、薬効の無い対掌体の存在が、薬効のある対掌体の体内動態に影響を及ぼすことになる。この様な薬物としては、HSAのサイト1に結合するワルファリンが知られている。ワルファリンは、代表的な抗凝血薬であり、S-体の方が、R-体に比べて数倍薬理活性が高い。また、HSAに対する結合は、両方とも非常に強いが、S-体の方がわずかに強いことが分かっている。最近、ワルファリン1分子およびミリスチン酸6分子と複合体を形成したHSAのX線結晶構造が、R-体、S-体それぞれについて、決定された。 今回、この複合体結晶構造を基に、高温分子動力学法によってサンプリングされたワルファリンの立体配座集団に対して3D検索を行ない、ワルファリンのR-体、S-体それぞれのHSAに対する結合について手法の検証を行った。 その結果、我々の手法を用いて、R, S-ワルファリンそれぞれの正しい結合様式を再現できた。また、ワルファリンはS-体の方が強く結合することを再現できた。基質特異性の低いHSAでさえ、結合様式を.決定できたことから、この手法は、他のタンパク質にも適用できると考えらる。この手法を用いた新規薬物のHSAに対するin silicoスクリーニングは可能であり、また、HSAの薬物に対するキラル選択性も判別可能であると思われる。
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