癌細胞が組織へ浸潤、転移していく際には、癌細胞の分泌するヘパラナーゼによって基底膜のヘパラン硫酸(HS)が分解される過程が含まれる。ヘパラナーゼがHS鎖中のβ-D-グルクロニド結合を特異的に分解することは分かっていたが、詳細な基質特異性はまだ明らかになっていない。そこで、ヒトヘパラナーゼの基質特異性を調べた。発現ベクターにヒトヘパラナーゼcDNAを組み込み、リポフェクション法によりヒトメラノーマ細胞A375Mに導入し、発現させたヘパラナーゼをアフィニティークロマトグラフィーで精製した。精製ヒトヘパラナーゼを、ヘパリン(Hep)及びHSから調製した様々な構造の硫酸化オリゴ糖約20種類に作用させ、消化物をポリアミンカラムを用いたHPLCで分析を行った。構造の違いによる感受性の違いを、消化率によって定量化し、作用のために必須の構造、また作用しやすい構造、作用しにくい構造を推定した。その結果、グルクロニド結合の周辺が高硫酸化されたオリゴ糖ほど、より分解を受けやすいことがわかった。また、分解部位近傍にグルコサミン3硫酸構造が存在すると、分解を受けにくくなることがわかった。 一方、アンジオモジュリン(AGM)は腫瘍組織の血管基底膜に特異的に存在する細胞接着タンパク質で、癌性血管の新生を調節する活性を持つことが知られている。これまでに、HSとの相互作用がAGMの搬能発現に重要であることが証明されている。今年度、AGM中のHep/HS結合部位のアミノ酸配列を含むペプチドを化学合成し、アフィニティーカラムを作成した。様々な組織に由来するHep/HSを、高親和性画分と低高親和性画分に分画し、両画分の構成二糖組成を比較した。その結果、ある特定の硫酸基だけが親和力に特に貢献しているわけではなく、AGMとの相互作用にはHS上のある特別な硫酸化配列が重要である可能性が示唆された。
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