ダイオキシン類は、現在、環境中に広く分布する汚染物質の一つであり、近年、内分泌攪乱化学物質として社会的な注目を集めている。ダイオキシン類の毒性は全身に多岐に亘る事が知られており、その毒性発現には、細胞の可溶性画分に存在する芳香族炭化水素レセプター(aryl hydrocarbon receptor ; Ah-receptor)と呼ばれる核内移行型転写因子が関与していると考えられている。すなわち、ダイオキシン類は、Ah-receptorを介して様々な機能性タンパク質を誘導することが知られており、これが毒性発現の発端であると推測されている。しかし、いずれのタンパク質の誘導がその毒性に直結するかについては不明な部分も多く、そのため、毒性発現機構については未解明な点が多く残されている。申請者らにより、ラット肝サイトソルにおいて見出されたセレン結合性タンパク質(SeBP)は、これまでに、ダイオキシン類の一つであるコプラナーPCBにより顕著に誘導されることが明らかになっている。さらに、本タンパク質に関して、これまでに、当研究室において全open reading frame(ORF)を含む塩基配列および全アミノ酸配列が解析されており、さらに、ダイオキシン類のよる誘導が、転写レベルで制御されていることが明らかとなっている。しかし、本タンパク質の生理的機能について未解明な点が多く、そのため、ダイオキシン類による毒性発現との関連性についても不明な点が多い。そこで、本年度は、本タンパク質の生理的機能解明に向け、その前段階として、ダイオキシン類誘導性SeBPの哺乳動物由来細胞内における安定発現を目指し研究を行った。当研究室において解析されているダイオキシン類誘導性SeBPの全ORFを含むcDNAを哺乳動物由来細胞用発現ベクターであるpTARGET^<TM> Mammalian Expression Vectorに組み込み、サル腎臓由来細胞COS-1 cellに導入した。そののち、薬剤耐性を指標として単一クローンのみからなるコロニーを選択し、継代を行った。さらに、安定発現の確認は、可溶性画分における免疫染色で行った。その結果、12個の別個のクローンからなるダイオキシン類誘導性SeBP安定発現COS-細胞の樹立が確認された。こめ安定発現株は、それぞれダイオキシン類誘導性SeBPの発現量が異なっていた。しかし、いずれの安定発現株についても、コントロールとして構築したMock vector導入細胞に比べ、細胞の形態および細胞増殖速度に顕著な変化は見られなかった。
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