ディーゼル排気(DE)曝露装置の曝露ガスに含まれる多環芳香族炭化水素類(PAHs)を、ローボリュームエアサンプラーを用いてフィルターおよびポリウレタンフォームに捕捉し、抽出と精製後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)でその濃度を定量した。その結果、ディーゼル排気に含まれているPAHsは2〜3環の揮発性の高いものが主要な構成成分で、主にガス態として存在していた。一方、ディーゼル排気粒子(DEP)には揮発性の低い4環以上のPAHsが多く含まれていた。そこで、マウスを粒子濃度の異なるDEにそれぞれ2ヶ月間暴露した後、解剖により臓器を摘出し、アルカリ分解と試料の精製を行い、HPLCで臓器中のPAHsの定量を行った。その結果、DE曝露マウスの肝臓や脂肪組織では、DE濃度依存的なPAHsの増加は観察されなかった。一方、DE曝露によってマウス肺には肉眼でも認められるほどDEPが沈着しており、そのPAHs含量はDEの濃度に依存して増加していた。マウスの呼気量と肺のPAHs濃度からPAHsの肺での残存率を算出したところ、0.3〜6.2%であり、PAHsの多くは肺胞上皮から吸収され体内に取りこまれていることが示唆された。しかし、主要な臓器である肝臓でのPAHsの蓄積は認められず、肝臓でPAHsが代謝および排泄されていると考えられた。一方、これらPAHsの代謝酵素の誘導に伴い、肝臓での酸化ストレスが高まると考え、酸化ストレスの指標であるDNA塩基の酸化物8-OHdGの測定も行ったが、そのDE曝露による有意な増加は観察されなかった。
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